小説
さよなら、いばら姫
こちらは成人向け小説です。
18歳未満の方の閲覧は固くお断り致します。
アルシオで結婚前夜の話。
素敵な企画を今年もありがとうございます!
アルシオ結婚おめでとう!!!!!!
窓から差し込んでくる明かりに照らされ、ふと壁にかかっている純白の婚礼服が目に入った。明日のために準備されたそれは、今までひとりきりだった自分が、愛しい人と結ばれるための儀式に使うものだ。
昼過ぎに最後の準備を終わらせた後、いつものように二人で夕食をとって少し早めに床に就いた。明日は今までの人生の中で最も大切な日になるだろう。こんなに幸せになっていいのだろうかと不安になってしまうが、その度にアルフェンが優しくシオンの名を呼ぶため、恐怖を振り払って温かな幸せに手を伸ばすことができた。
なんだか高揚して落ち着かない気分だったが、それと同時にどこか落ち着いている自分もいた。まるでさざめく波と静かな時間の流れが共にある、夜の海を眺めているような気持ちだった。
きっと昔の自分だったら真っ暗闇のことばかり考えてしまっていたのだろうが、今は違う。隣にはアルフェンがいる。彼と手を繋いでいれば、暗い海に飲み込まれそうになることはない。
身体の向きを変え彼の寝顔に目をやると、すうすうと規則正しい寝息が聞こえてくる。銀髪には既に寝癖がついており、これは明朝が大変かもしれないとシオンは苦笑した。
「アルフェン。好きよ」
そうして頬に口付けをする。小さないたずらをして満足し再び瞼を閉じようとした時、ぎゅうと強く腰のあたりを抱きしめられる感触がした。
「ひゃっ! あ、アルフェン……!? 起こしちゃったかしら。ごめんなさい」
「……いや、いいんだ。シオンが可愛いことをしているからつい」
ゆっくりと開かれた眼はシオンを中心に捉える。恥ずかしがらず可愛いと言ってのける様子に照れてしまうが、つい先ほどまで自分の過去を振り返っていたせいだろうか。自分を真っ直ぐに見つめる瞳が、まるでいつかの旅路を思い出させてシオンは微笑んだ。
「……ねえアルフェン。あの時――禁領でネウィリの言葉を聞いた時、彼女はあなたに生きて、と言ったわね」
「ああ、そうだな」
「そしてあなたは私と生きる、と言ってくれた。……とても嬉しかった」
シオンはその時のアルフェンの表情を思い返すように目を閉じた。運命でも宿命でも使命でもない、シオンと生きる。そんな風に言ってくれる人と出会えるなんて、ましてやその愛しい人と結婚するなんて夢にも思わなかっただろう。
「アルフェン、私幸せよ。ありがとう。私に触れてくれて」
そしてアルフェンの手を、シオンは両の手のひらで包んだ。自分よりも少し温かい手、それが好きだった。
「……ああ。俺もだ。ずっと触れたかった」
アルフェンは指先で髪に触れたのち、シオンの顎に手を添えて唇についばむようなキスを落とした。それに応えるように目を閉じると、同じ洗髪剤の香りに混ざってアルフェンの匂いがする。それはまるで大事な時間を思い出させる香水のようで、心がまたほんのり温かくなった。
お互い触れあうだけの口づけのつもりだった。けれど一度ついてしまった火種を消すことは難しく、アルフェンの腕が伸びてきてシオンの身体を包む。薄い寝衣越しに体温が伝わってくると、ふとその熱をもっと感じたいと思ってしまった。
明日は自分の人生の中で最も幸せな日、大事な日であるのだから、早く寝て身体の調子を整えておくべきだろう。けれど、アルフェンに触れられたいと望んでしまっている自分がいる。寝衣越しに触るだけではもどかしい。触れ合うだけの口づけだけでは物足りない。彼の熱を感じあって、混ざり合いたい。
「アル、フェン……」
何度目かの口づけをしたのちアルフェンの顔を見ると、彼の表情にも欲情が見え隠れしているのが分かった。何か言葉にしようとして止まってしまった口を動かしごくりと唾液を飲み込む。
アルフェンは先ほどと同じようにシオンの髪を手に取るとそれに口づけて、シオンの表情を窺う。さらりと手のひらから落ちていく髪を名残惜しそうに最後まで見届けながら、シオンの瞳を見つめた。
「……シオンに触れたい。いいか?」
ほんの少し憂いを孕んだ、けれど確かにシオンに触れることを望んでいる声。心臓がどくどくと鼓動を速めるのは、その先にある快楽を望んでしまっているからであろうか。シオンはわざとアルフェンから目を逸らしか細い声で答える。
「……跡を残すのはだめよ」
「ああ、分かった」
「い、一回だけだからね?」
「……ああ、分かった」
二度目の返答が少し怪しいと感じながらも、シオンはアルフェンの伸ばした腕に身体を委ねる。温かい。もっともっと、私をあなたの熱でいっぱいにして欲しい。
何度も肌を見せ合っているはずなのにいまだ恥ずかしさを感じてしまうのは寝衣をゆっくりとアルフェンに脱がされているからだろうか。
脱がせるのなら下着まで脱がせてくれればいいのに、そこはシオン自身にやらせるものだから余計に恥ずかしくなってしまう。彼にしか見せたことがない薄桃の下着を、掛布の上に優しく置いた。
白く滑らかな胸を隠すシオンの片腕を取り手の甲に優しく口づけをする。そして首筋にもひとつ、喉にもひとつ。時間をかけてゆっくりと触れる姿はまるで、初めて身体を重ねた時のようだった。
「んっ……!」
違うのは、何度も肌を重ねあうことによりこの温もりの愛しさを知ったことと、触れられただけで腹の奥がじんわりと熱くなってしまっていること。
腰を抱かれながら胸の突起をいじられ始めると、そこはまるで教え込まれたかのようにすぐ固くなってしまう。そして舌が口腔内に侵入してきて絡み合う、とろけるほど気持ちいいキス。混ざり合った唾液がほんのり甘いような気さえして、頭の中がぼうっとしてしまう。
「ある、ふぇん……」
銀糸を伝わせながら唇が離れ吐息とともに言葉が漏れる。腹の奥が先ほどよりもより一層熱を増しており、何かを求めるように切なく収縮を繰り返す。愛液が溢れシーツに染みを作ってしまっているのが恥ずかしくて仕方ないが、抑えることなどできなかった。
「シオン。好きだ」
シオンをベッドに優しく押し倒すと、アルフェンはそのまま腰から太腿に手を滑らせていく。自分の手よりも体温の高い彼の手が肌を撫でる度に、今か今かと期待する蜜口がひくひくと震えている。繋がりあうことはおろか、触れ合うことすら知らなかったのに、今はこうしてアルフェンの愛撫ひとつひとつに敏感に反応してしまっているのだ。
アルフェンがシオンの蜜壺に指をいれようとした時、ふとシオンの身体に着たままだった彼の寝衣が触れた。いつもなら気にしたことなどない、いや着たまま行為に及んだこともあるくらいなのに、何故か今日に限ってその薄い隔たりがあることがとても寂しいものに思えてしまい、シオンはつい言葉を発した。
「ま、まって……! アルフェンも、脱いで欲しいの……!」
心ではなく身体に正直になれば、早くアルフェンを求めて疼いている蜜壺に杭を打ち込んでほしい。かき回してぐちゃぐちゃにしてほしい。二人抱き合って迎える絶頂を早く感じたい。
けれど、今日は婚礼の儀の前日なのだ。協力関係から仲間、大切な人、そして恋人だった二人は夫婦となる。それだけなのに、どうしてかこれ以上ないくらい大切なものに思えるのだ。
孤独ないばら姫は大好きな人のお嫁さんになる。そんな子供のころですら想像できなかった夢が現実になろうとしている。ひとりぼっちで生き続けてきたいばら姫へのはなむけとして、たくさん触れ合ってたくさん愛しい人の熱を感じたい。
「……あなたに、触れたい」
ずっと自分と共にあったいばら姫の、最後の願いを叶えたいのだ。
アルフェンはシオンの言葉を聞くと、着たままだった寝衣を脱ぎ捨て、筋肉質で褐色の腕をシオンの身体に回し優しく抱きしめた。
「ああ。いっぱい触れ合おう。――愛している」
その言葉はすっと心に届き、瞳から一滴の涙が零れた。
世界で一番大好きな人と抱きしめあうことができる。〈荊〉が、呪いがこの身に顕現してから初めて、生まれてきてよかったと強く思うことができた。
シオンもまたアルフェンの身体に腕を伸ばし力を籠めれば、それに応えるようにアルフェンの腕がシオンの身体を強く抱きしめる。
「あなたと一緒に生きられるなんて、私は世界で一番の幸せ者よ」
滲む視界の中、シオンはくしゃりと笑った。
そしてどちらともなく口づけをする。触れ合うだけの、けれど思いのこもった深いキス。
結婚して夫婦になっても今と何かが変わるわけではないだろう。二人同じ寝台で起きて、二人で朝食を作って。たまには言い合いをすることがあるかもしれないが、きっとそれでも夕食は二人でとるのだろう。物語の中のお姫様のような暮らしではなく、愛する人が傍にいる素朴な生活。――なんて幸せなんだろう。
シオンがアルフェンの瞳を見ると、そこには慈愛と抑えきれていない欲望があった。目は口程に物を言うというが、まさかこれほどとは。思わずくすりと笑い出してしまうが、自分だって同じだ。アルフェンに触れたい。身体のもっともっと深いところまで繋がりたいのだ。
「アルフェン。……抱いて、ほしいの」
お互いの腕が離れると、シオンはアルフェンの手を取って自分の胸に押し当てる。この高鳴る鼓動が伝わっているのか、アルフェンはごくりと息を吞んだ。
「今日は優しく、抱くからな」
微笑むシオンとは反対にアルフェンは至って真面目な顔で、まるで決心したかのようにそう言うものだからもう一度笑ってしまう。
穏やかに夜を温めていた焚火は再び高く燃え上がる。何度も何度も唇を重ね、胸の突起をいじられながら、大きな掌が肌をなぞっていくのが気持ちよくて思わず背中がそってしまう。
「やんっ……!」
随分とお預けされていたようにも感じる秘部に手を伸ばされると、愛液でぐっしょりと濡れており、もうすっかり彼のものを受け入れる準備が整っていた。今すぐにでもここを埋めて欲しい気持ちでいっぱいだったが、先ほどの「優しくする」の言葉通りか、アルフェンはくりくりと指で花芯を転がし始める。
「んっ! もう、中、大丈夫だからっ……!」
「じゃあ中にいれるぞ」
「あっ、やんっ……! 指、じゃなくて……!」
シオンのささやかな抵抗も虚しく、蜜壺には中指が入るだけで張りつめた欲望をいれる気はまだないようだった。
それでも健気な蜜壺はやっと入ってきたアルフェンのものをきゅうきゅうと締め付ける。ぐちゅぐちゅと中を拡張するかのように指を動かし、関節を曲げてシオンの良いところを触るが、達する前に動くのをやめてしまう。
指が入っているというのに逆に物足りない気分だ。もっとこの中をすべて埋めてほしい。
「んっ……! あるふぇ、ん……もっと……!」
速くなる呼吸に思わず出てしまう嬌声。触れ合う肌が熱くて仕方ない。彼に触れて触れられて、私は今を生きている。
やっと遊ぶことに満足したのか、水音を立てながら指が引き抜かれた。それだけで達してしまいそうだったが、もっともっと気持ちよくなりたいとシオンの身体も心も叫んでいた。
寝台に横たわるシオンにアルフェンがそっと口付けをする。言葉にしてもしきれず、溢れ出した愛しさを伝えるように身体のあちこちに口づけをおとした。きっとこの身体で彼が触れていない場所はもうどこにもないだろう。もちろん、心さえも。
アルフェンは汗で濡れた髪をかきあげるとシオンを見つめた。灰白色の向こうに燃える炎が見え、シオンの心臓がどくりと跳ねた。足を割り開かれ、そびえ立つ屹立が蜜口にあてられる。どくどくとうるさいくらいに心臓が鳴っていた。
「シオン、いれるぞ」
「……ええ。きて、アルフェン」
アルフェンの腰がゆっくり動くと、暴力的なほど大きい剛直がシオンの膣壁を擦りながら入ってくる。何度も受け入れているはずなのにいつまでも慣れることはない。それどころか、アルフェンの腰使いまで鮮明に分かるようになってしまっている。ずぶずぶと蜜壺を埋めていき、今最奥にたどり着いた。
「んんんっ……! ある、ふぇん、アルフェン……!」
力なく伸ばされた手をアルフェンが力強く握る。自分の上に覆いかぶさるような体勢の彼は、早くものを動かしたくて溜まらないだろうに、シオンが大丈夫かどうか様子をうかがっている。荒い呼吸を繰り返しながらもシオンを見つめる優しい瞳は、ただ肌を重ねるだけではなく心から触れ合いたいと告げているようだった。
「動くぞ」
そう呟くと、今まで蜜壺を埋めていたそれがずるずると抜かれるが、寂しさを覚えるよりも早く最奥まで一気に突かれる。溢れ出した蜜が混ざり合い水音を立てるが、シオンの耳には自分の喘ぎ声とアルフェンの声しか聞こえていなかった。
「やん、きもち、いいっ……! だめぇ、だめっ……! んんんっ……!」
「シオンっ……! 好きだっ」
肌を打ち付けあうたびにアルフェンの息遣いはだんだんと荒くなり、自分の腰をつかむ手にも力がはいる。もっと触ってほしい。もっともっと、深いところまで来てほしい。この身体をアルフェンでいっぱいにしてほしいのだ。
――〈荊〉と共に心中すると決めていた。本当はずっと寂しくて仕方なかったのに、自分の心さえも押し殺していた。いばら姫は、誰かにこの手を取ってほしかっただけだった。
膣壁をアルフェンのものが擦るたびに蜜壺はきゅうきゅうと切なげに収縮する。シオンの全てがアルフェンを求めている。それに応えるようにアルフェンの体温、言葉、眼差し。全部が今シオンだけに向けられている。
――シオンと生きる。そういってくれた時、どれほど嬉しかったか想像できる?
こんな風に大好きな人と肌と心を重ねることができるなんて夢にも思わなかった。こんなにも幸せだと思えるなんて。アルフェン。私も、あなたと生きたい。
だんだんと腰の動きははやくなっていき、二人が達する瞬間、どちらともなく手を繋いだ。そして強く握る。離れないようにと。
「だ、めぇ……! もうっ……! んんんんんっ!」
「くっ……!」
シオンが一際強くアルフェンのものを締め付けると、どくどくと熱いものが胎内に吐き出された。呼吸が落ち着くのを待ってからアルフェンは自身のものを抜くと、どろりと白濁が蜜口から溢れシーツを汚す。
「アルフェン。……好きよ」
シオンはそれだけ言うと、急激な疲労に襲われ目を閉じた。まどろみのなかで、大切な人の声と熱を感じていた。
そして夢の中。幼い少女が一人。
その少女はシオンに向けて「ごめんね」と「ありがとう」だけを伝え、微笑みながら温かい光の中へ消えていった。